前回の白山登山のブログ。 ぱぴカムさんからいただいたコメントにお答えしたいと思います。
白山砂防新道で滑落事故に遭遇しました。 毎週のように山に登ればいつかはこんな場面に遭遇するだろうと思っていたけど、意外に早かったです。
滑落したのは女の子二人連れのうちの一人。 私たちは登り。 彼女たちは前日室堂に泊りご来光を眺めた後の下山途中でした。
私たちが南竜分岐を過ぎたトラバース道を歩いていると、見るからに危ない雪渓を横切る登山者を発見。 なんであんな危ないところ歩いてるんやろ、と不思議に思っていると、どうやら夏道(一般的な登山道)を下り過ぎて、安全に雪渓を渡れるポイントを通り過ぎてしまったみたいです。
近づくとすでに同行の女の子が谷に滑落していました。 大声で無事を確認すると元気な様子。
上から見て安全に登れそうな所へ誘導して、最後は登山道にひっぱりあげました。 運が悪ければ命を落としかねない状況。 岩に頭をぶつけなくて良かった。 沢が割れてなくて良かった。 とにかく無事で何より。
この滑落は突発的なものではなく、判断ミスが原因。
・安全なルートに引き返さなかった事。 ・チェーンアイゼンで雪渓を渡った事。 ・同行者を助けに危険な斜面を下ろうとした事。
おじさんは何も言うまいと思っていたのですが、少しでも参考になるなら自分なりにあの場面で感じたことを書きたいと思います。
写真を拡大するとわかるのですが、雪渓の上には踏み跡(トレース・ステップ)が残っています。 雪渓のトラバース(斜面を横ぎる)は踏み跡を歩くのが基本です。 雪が締まり安定しているので滑落の危険は少ないです。
上から下ってきた彼女たちは踏み跡が残る道との合流点を通り過ぎてしまいました。 確かに合流点は笹藪を漕ぐような所にあったので仕方ない部分もあります。 (本来なら登りで要チェックポイントとして写真を撮っておいたり目印を残しておくべき)
夏道を下り過ぎてしまった彼女たちは踏み跡の薄い危険な雪渓に突き当たりました。
ここでできることは2つ。
① 安全な道の合流点を探しに夏道を登り返す。 ② アイゼンをつけて雪渓を渡る。
彼女たちは②を選択しました。 残雪期の山ではよくあることなので決して間違いではありません。
ただ、経験と装備が不十分でした。
女の子二人で残雪の白山に登るくらいだから山慣れしているはず。 それでも滑落してしまったのはおそらく雪山の経験が少なかったのだと思います。 無雪期の山と雪山は全くの別物。 どれだけ夏山の経験を積んでも雪山には全く役に立ちません。
滑落した女の子のブーツには爪が短いチェーンアイゼンが装着されていました。 チェーンアイゼンはあくまで凍った平地向き。 無いよりはマシだろうけど、グズグズの雪がかぶる急斜面を横切るのはあまりに無謀。 チェーンアイゼンで雪渓を渡れると判断したのはアイゼン歩行の経験不足。
ちなみに私は6本爪の軽アイゼンを携行していました。 結局使わなかったけど残雪の山に登るなら6本アイゼンとストックは必要な装備です。
仮に②しか選択肢がなくチェーンアイゼンしか持っていなかったのなら、雪渓を横切るのではなく、真上に直登してステップのある道に合流すれば事故は防げたと思います。 雪渓の端の笹を掴みながら。
ひとつ目の「・安全なルートに引き返さなかった事。」は二人の判断ミス。 どちらかがリーダーだったならリーダーの重大な判断ミス。 チェーンアイゼンをつける時間があったなら、引き返して安全なルートを探すべきでした。
ふたつ目の「・チェーンアイゼンで雪渓を渡った事。」は滑落した子の判断ミス。 実際に滑落するような時はかなり危険な状況です。 危険を察知できていたはず。 これ以上進むのは危険と判断するべきでした。 「困難には立ち向かうが危険は回避する」のがお山の掟。
最後の「・同行者を助けに危険な斜面を下ろうとした事。」 これは絶対にやっちゃいけないこと。
僕たちが現場に着いた時、落ちた女の子を助けようとしてもう一人の女の子が危険な斜面を下っているところでした。 彼女がするべきことは助けを呼ぶ事、落ちた子が自力で登れそうなら自分の安全を確保してサポートする事のどちらかです。
あんなに滑りやすい危険な斜面で落ちた女の子に手を差し伸べたところで、二人まとめて転げ落ちることは容易に想像がつきました。 あの日の白山はかなり人が少なかったので、二人まとめて谷底に落ちて動けなくなればしばらく発見されることはないでしょう。
これはスキーパトロールをしていた時に叩き込まれたのですが、人を守るにはまず自分を守ること。
自分が常に安全な状態でいなければ他人を助けることなど出来ません。 被害が拡大しないように行動するのが一番大事。
長々と書きましたがとっさの判断はかなり難しいことも事実です。 友達を助けたい一心で無理な行動をとってしまうのも当たり前かもしれません。 めっちゃ仲が良いお二人だったし。
見た感じ、二人は立派な山ガール。 チャラチャラとした印象はありませんでした。
落ちた女の子もあんな急斜面を三点支持でほぼ自力でよじ登ってきました。 登行技術も体力も十分。 後はほんの少し落ち着いて判断・行動すれば大丈夫。
ほんとなら二人まとめて注意しなければいけないところですが、まるで滑落などしなかったかのように普通に世間話をしてお別れしました。 「この斜面登れるならどんな山だって登れるわ!」って笑い飛ばしました。
これもスキーパトの習慣。 笑顔でどうでもいい話をすることは、怪我をしたり事故を起こしたりして気が動転している方にとても有効です。
彼女たちにはまだ危険な下山ルートが残っています。 もしあの時きつく注意をしていたら、おびえ暗い気持ちを引きずったまま下山することになったでしょう。 助けた時、それくらい申し訳なさそうに頭を下げてくれました。
これから先の下山ルート、注意点を教えました。 落ちた子の引き締まった表情がとても印象的でした。 「しまっていくぜ」的な。
彼女たちが無事安全に下山できるように動転した気持ちを落ち着かせてあげるのも、おじさんたちにできることのひとつだったと思っています。
追記: あの日あの時あの場面で、プロの登山家でも山岳ガイドでもない素人の私が感じたことです。 山は一日で姿を変えます。 雪の状態も様々です。 ここに書いたことが全てではないことをご理解ください。
「山は登ってみなけりゃわからない」 私の口ぐせです。
土砂が崩れているかもしれない。 沢があふれて渡れないかもしれない。 熊がいるかもしれない。 晴れていても山頂は雪かもしれない。 雨でも山頂は晴れているかもしれない。
いろんな意味がふくまれているけど、実際に山に登って感じることです。 「山は登ってみなけりゃわからない」 僕の僅かな経験、浅知恵など通用しないなと。
山を歩くにはリスクがつきもの。 どんな場面に遭遇しても落ちついて行動できるように、心の準備もしっかりしておかなければならないと改めて思いました。
はぴカムさん、自分の想像をはるかに超える長文になってしまいました。 山の事となるとやたら筆が進みますね。
|